ペルシア語は紀元前の古代ペルシア語から今日に至るまで楔形文字、パフラヴィー文字、それからアラビア文字といった様々な文字を用いてきた。現在のペルシア語文字は32文字から成っており、うち28 文字はアラビア語に由来し、4文字がペルシア語で独自に作られたものである。語の視覚的な形(表記法)が、これらの文字の組み合わせによって決定される。いずれの語をいずれの文字で書くか、伝統、慣例等の基準によってある程度は決まっており、読み書きの際、単語の「形」を理解することは極めて重要となる。しかし、一部の語の表記法は事実として多様化している。伝統、慣例等に基づき自立語の形成に関しては一定の規則性がある。一方で接辞や前置詞等を自立語と一体で書くか分けるか、あるいはいずれの複合語を一体化させ、また分書するか、といった問題には個人の好み等の要因による偏りが存在する。かかる要因が現代ペルシア語の表記法に統一性を失する結果をもたらしている。表記法の乱れに対処することを目的とするファルハンゲスターネ・ザバーネ・ファールスィー(ペルシア語アカデミー)の規則化の努力にかかわらず、教科書、マスコミ、SNS等において依然として表記法の異同が散見する。本論文では、イランの学校教科書、新聞、雑誌、SNS、あるいは表記法に関する書籍刊行物等を題材に、表記法の主な相違点を取り上げる。マスコミ、SNS、教材や書籍などにおいて、一層のデジタル化が顕著な社会状況を踏まえ、ペルシア語研究、また非ペルシア語母語話者へのペルシア語教育などの観点も含めて表記法のスタンダードを明確化することは、今後取り組むべききわめて重要な課題であると論者は考える。